音水信二のはてなブログ

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おもちゃの都合を逆手にとって大人気に『ウルトラマンオーブ』の話。

 

 アニメであったり、特撮ヒーローなどにはおもちゃなどキャラクターグッズの宣伝が多いです。これは何もこの数年で始まったわけではなく、今年で40周年を迎える『ガンダム』なども言ってしまえばおもちゃの宣伝番組です。『ウルトラマン』においては『帰ってきたウルトラマン』においておもちゃの売り上げのために主役のデザインの変更が行われました。アニメにおいても『ルパン三世』がグッズの売り上げのために服の色を変えたしています。

特の特撮番組ではとにかくおもちゃが多いです。そのためおもちゃの宣伝番組なんて揶揄されることもあります。例えば変身するのに変身アイテム一つと、複数の小物。複数の小物を使って別の姿になるのが二つか三つぐらいあり、敵も同じアイテムを使ったりします。
番組開始後何カ月か経つとこれまでのアイテムが通用しなくなり、新しいアイテムを使ってパワーアップして敵を倒します。そしてさらに番組終盤になると新しい小物とかっこいい武器を使ってパワーアップします。

それに文句を言う人はいないわけではありませんが、それを言い出したら新作の展開ができないというジレンマがあります。
ちなみにウルトラマンは最初からおもちゃの番組だったなんて話もありますがそれは嘘です。おもちゃ展開が考えられ始めたのは『帰ってきたウルトラマン』からです。


もちろんそれは悪いことだけではありませんグッズの宣伝さえできれば中身は好きに作っても良いという土壌によって生み出された名作は数多くあります。
例えば上でも述べた『機動戦士ガンダム』、『伝説巨人イデオン』などの初期富野由悠季作品。白倉伸一郎プロデューサーによる『仮面ライダーアギト』『仮面ライダー龍騎』『仮面ライダー555』などはその代表格です。

ただ上手く描写しないと「強い困難に立ち向かう時は、良い道具を手に入れよう」というメッセージを描くことになります。
言ってしまえばそれは「道具を持っているものが勝つ」ということになり、突き詰めていけば「良い道具さえあれば使用する人間は誰であっても変わらない」という風に取られかねません。

例えば『仮面ライダーカブト』では、自分の同じ能力があるダークカブトとの闘いにおいて、心理戦をしているような場面の中で、ハイパーゼクターというパワーアップアイテムを使ってハイパーカブトに変身し、ハイパーゼクターという武器を召喚し、心理戦関係なしにビームで攻撃して倒すという場面があります。
これはある意味仮面ライダーカブトという作品を表しているような場面でもあります。しかし上で述べたような「良い道具さえあれば使用する人間は誰であっても変わらない」という風に取られる恐れがります。
一応『仮面ライダーカブト』を擁護しておくと、カブトに変身する天道総司は敵を倒すため長年鍛え続け、その結果ハイパーゼクターなどのアイテムの所有者して認められているということになっており、設定を踏まえた上では上のようなツッコミには当たらないようになっています。


 グッズの見せ方はそれぞれの作品で工夫されています。ここれはそれが上手くいった例をいくつか紹介します。


ウルトラマンガイア』や『ブレンパワード』では二つの力が一つになることで何かを失いパワーアップします。パワーアップする理屈もしっかりしていますし、無理のない自然な展開で魅力的にキャラクターを見せることに成功しています。


伝説巨人イデオン』では主人公の乗るロボットをおもちゃとして発売した上でそれは良いようにも悪いようにも使えるということを本編で表現しました。
 

仮面ライダー剣』では主人公がすべての武器やアイテムを失った上でそれらを使わず敵を倒すことで最強の武器を手に入れます。
 
仮面ライダーオーズ』では山のようにグッズを発売し、現実世界でグッズ争奪戦を起こして置いた上で、本編では欲望の暴走の危険性を描きつつ。最終的に欲望を肯定しました。
欲望を肯定する作品がグッズを売りまくるということは堂々としていていいですね。


またその対照的な作品として

 『仮面ライダークウガ』では敵を倒すための戦士であるクウガやその武器をおもちゃとして売りながら作品として暴力に対して批判的な態度を取りました。
 おもちゃの売り上げを意識せず、おもちゃ化もされた主人公の最強の姿を最終回一話手前の最後の戦いにしか登場せず、しかもそれもただ殴りあうだけというシーンを作りました。しかしその短いシーンで最強の姿を魅力的に描いたことで強烈な魅力を生み、今ではおもちゃとしてもとても人気となりました。


このようにおもちゃが本編に出てくることは必ずしろマイナスにはなりません。場合によっては物語を彩るものとして使えます。
 しかし売るおもちゃがとても多くそれらすべてをストーリー上魅力的に見せることは難しくもあります。


ウルトラマンオーブ』そんなおもちゃの商品展開ために課せられる様々なノルマを上手く乗りこなし大人気作品となりました。


たくさんの形態をどれも魅力的に見せた『オーブ』の工夫

『オーブ』では主人公が複数の姿にパワーアップしますが、どの形態も活躍できるように工夫されていました。
シナリオとしても自分に自信をなくし一人で変身できなくなったウルトラマンがいろんなウルトラマンの力を使いながら成長していき自分の力を取り戻していくという風にすることで、50周年記念作品であり、10年ぶりの番組を持つ新作としてふさわしい設定にしつつ、主人公がいろんな力を試しながら元の力を取り戻す形にすることでインフレを防ぎました。
特に上手いのが第一段階のパワーアップ所謂、中間フォームの扱いです。ウルトラマンオーブ以降のウルトラマンは基本形態、中間形態、最終形態と三段階にパワーアップします。   
例外として『ウルトラマンR/B』は中間形態に該当するアイテムとして敵のウルトラマンへの変身アイテムを発売し、主人公たちが使ったら特別な必殺技が使えると言う風にしました。それ以外の作品とっても今のところ『ウルトラマンジード』と『ウルトラマンタイガ』の二作品ではオーブと同じように二段階のパワーアップを果たしました。
平成仮面ライダー特に仮面ライダードライブ以降はウルトラマン以上に非常にパワーアップが多く上手く使わないと、あまり個性がないまま出番を終えてしまいます。

このように複数形態がある際一番損を見るのは中間形態です。基本形態は最初に活躍しますし、最終形態は最後に活躍します。しかし中間形態は真ん中らへんに少し活躍した後、最終形態にパワーアップする直前にかませとなって負け、そのまま活躍することがなくなるなどろくなことになりません。
 『ウルトラマンオーブ』では中間形態を光と闇の力が融合した姿として出します。そして闇の力に飲まれかけた主人公が暴走し、それを乗り越えるための手段として最終形態が登場します。そして最終形態が登場したことにより光と闇の力を使いこなせるようになり、闇と光の力が安定化します。
もしも中間形態が単純に暴走する姿だった、最終形態が登場以降中間形態の出番がなくなってしまいます。しかし『オーブ』では闇を受け入れるということにして最終形態登場後は少し力が強い姿として中間形態も登場します。
これはオーブが過去を乗り越えたことを表現することに成功しています。

また最終形態『オーブ』では主人公がまず基本形態で戦ったあと最終形態なって敵を倒すことを一つのパターンとしています(厳密には一話だけ例外があります)。
これは『オーブ』以外でも行われていますが、最初から最強形態を使えというツッコミも入ってしまいます。
 『オーブ』では基本形態が過去のウルトラマンの力を借りている姿なので、主人公まずこれまでの力を借りて戦いつつ、とどめは自分の力でけりをつけるという風にピタリとはまっています。
 これは過去のヒーローの力を宿したおもちゃを使って基本形態に変身することを完全に逆手にとったことでできた方法です。
『オーブ』は本編終了後にも、劇場版や番外作品にて3種類の強化形態が登場しました。これも通常は非常に使いづらい設定です。なぜならば本編におい最終形態が登場しているにも関わらずそれを超える姿を出してしまうと、本編の最終形態の印象が薄れてしまいます。
 『オーブ』の前作『ウルトラマンX』や次回作『ウルトラマンジード』では一応の差別化はされているもの、テレビ本編における最終形態よりも映画などで出てきた姿の方が純粋に強く、テレビにおける最終形態の使い心が難しくなっています。
近年の『ウルトラマンR/B』や『ウルトラマンタイガ』では大人数で融合した姿を劇場版の強化形態とすることで差別化を図りました。その反面やや活躍させにくくもあります。
 
 『オーブ』では自分を取り戻す物語にしたことで、テレビにおける最終形態を設定上の基本形態にすることで本編以降は、いきなり最終形態で登場し、必要に応じで劇場版以降に登場した姿になります。またそれと同じように本編における基本形態や中間形態にも変身するので、本編終了後の展開でもどの姿も活躍することができます。
 このようにオーブはおもちゃ展開上の姿が変わることをすべて生かし切ったのです。

 感動のオーブオリジン

『オーブ』ではおもちゃからなる不思議な音も有効活用しています。
前作『X』では不思議な音をオープニングの最初に入れるなどの工夫をしましたが、『オーブ』ではそれを超える演出をしました。

 オーブの主人公は劇中いつもハーモニカでオーブニカというメロディーを吹いています。それは主人公を象徴するメロディーであると同時にレクイエムでもあります。
 やさしくゆっとりとしたメロディーでとても印象に残ります。
 『オーブ』の最終形態の時不思議なメロディーがなるのですが、なんとこの曲がオーブニカのメロディーをカッコよくアレンジした曲なのです。
 主人公がこれまで過去を振り返るように弾いていた曲を過去と向き合った時にカッコよくアレンジされて登場するという演出に感動し、私はこの音声がなるおもちゃが欲しくなり買いました。私はめったに変身アイテムを買いません。今も家にあるウルトラマンへの変身アイテムは、幼稚園のころ買ってもらったネクサスへの変身アイテムとオーブ関連のおもちゃだけです(その代わりと言ってはなんですがソフビは山のように買っていました。)。

 
また『オーブ』ではテーマとして昭和と平成の融合を掲げており、技術的にもCGとミニチュアを組み合わせた撮影方法などが行われているのですが、おそらくおもちゃ展開の都合で二つの力を合わせて変身するウルトラマンになったにも関わらす、それをテレビ本編においては昭和ウルトラマンの力と平成ウルトラマンの力を合わせるようにすることで、おもちゃ展開とテーマ性を両立しました。


過去作とのつながり

オーブテレビ本編においてはこれまでの作品のヒーローや世界観は主人公が使う力としてまでに抑えます。怪獣なども種族名などは使いますが、これまでと同一人物がでてくることはなくします。
それにより、過去の要素を使いながらも初めての方でも楽しめるウルトラマンを作り上げました。

しかし間接的なところで過去作とのつながりを作りました。
 
例えば、本編で過去のサブタイトルがセリフとして忍ばせており、それを探すという娯楽がありました。

特に象徴的なのが第一話の変身シーンが円谷英二の発明品の中で行われているのに対し、最終回では青空の下道路を走りながら変身しました。
これはとてもかっこいいシーンです。
 

 オーブを見て見たいけど、この世にはたくさんのことがあり、オーブ全話を見る余裕がない方もいるでしょう。そういう方に、是非一話だけ見てもらいたいお話があります。それは    第22話「地図にないカフェ」です。
 『ウルトラマン』と『オーブ』の魅力がたっぷり詰まっています。


まとめと次回作への橋渡し

 さてこのように『ウルトラマンオーブ』では過去の要素をおもちゃのアイテムとして魅力的に描写することで、おもちゃとしての魅力を生かしつつ「これまでの歴史を当事者として振り返ることで」オリジナルの物語を作り上げることに成功しました。


 しかしそれは過去作の要素が宿ったおもちゃいくら魅力的に描いたところでそれらをブラックボックス的に扱い、おもちゃを使って変身することであったり、ウルトラマンの力が宿ったおもちゃを使うとはどういうことなのかというところまで踏み込めていないのではないか。
 また『オーブ』の主人公はウルトラシリーズ51年(ウルトラQ含む)の擬人化としての存在であり、だからこそ過去を振り返り自分自身を取りもどし復活する(番組としても復活する)という内容でしたが、あくまで実際の作り手のほとんどはウルトラシリーズの立ち上げに関わっていないあくまでウルトラマンの継承者です。
 さらに言うならオーブがどれだけカッコ良くてもそれはあくまでテレビの中にしか存在しない作りもののヒーローでしかありません。

 そういう問題に向き合ったのが次回作『ウルトラマンジード』です。

ウルトラマンジードとはどういう物語だったのかについての記事を近日ブログに投稿します。そちらも是非ご覧ください。

 

 6月1日貼り付けました。

otomizusinnzi.hatenablog.com